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電源を切ったのに生きている回路——バックパワーの正体

🧮 数学・計算

組み込みの現場には、初見だと超常現象にしか見えないトラブルがある。

主電源(たとえばモータ用の24V系)を切った。なのに基板上のICがうっすら動いている。LEDがぼんやり点く。触ると妙に温かい。配線を間違えた記憶はない——実際、間違えていない。

犯人は入力保護ダイオード

CMOS ICの入出力ピンには、静電気からチップを守るための保護ダイオードが入っている。各ピンから電源レールへ1本、グラウンドへ1本。通常動作では逆バイアスで、いないのと同じだ。

ところがIC の電源が落ちていて、信号線には別の機器から電圧が来ているとき、話が変わる。

信号ピンの電圧が(死んでいる)電源レールより高くなると、上側の保護ダイオードが順方向になる。すると電流は

信号線保護ダイオード電源レール信号線 \to 保護ダイオード \to 電源レール

と流れ込み、電源レールそのものを裏口から充電してしまう。ICは自分の電源ピンに(ダイオード1本ぶん低い)電圧を得て、中途半端に生き返る。これがバックパワーリング(back-powering)だ。

なぜ熱くなるのか

保護ダイオードは静電気の一瞬のサージを逃がすための細い経路で、連続電流は数mA〜十数mAしか想定されていない。そこへ別電源からの電流が流れ続けると、ダイオードとその周辺が発熱する。定格を超えれば劣化・破壊もあり得る。

「電源が入っていないのに温かい」は、この経路に電流が流れ続けているサインだ。

起きやすい局面

共通の構図は「死んだICに、生きた信号線」。

設計と運用の対策

回路図の上では存在しない経路が、シリコンの中には最初から描かれている。保護素子は「異常時にだけ現れる配線」だと思っておくと、この種の怪奇現象は一気に散文的な話になる。