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面白かったことの記録。

熱雑音でボルツマン定数を測る基板 ── 90dBの増幅鎖、プロの検図、そして発注後に見つかった架空の部品

抵抗が温度だけで発する雑音からkBを測る計測基板を、AIワークフローで設計してJLCPCBに発注するまでの記録。専門家の検図が拾った「kBが1.53倍に出る」バグ、16本のコイル線と檻の攻防、DRC 582→0、そして発注した翌日に発覚した「実在しないフットプリント」の顛末と、その回収計画まで。うまくいった話より、転んだ話を厚めに書く。

AIと基板を一日で起こす ── カオス回路、要求からガーバーまでの全記録

「なんか基板作るかぁ」から発注用ガーバー一式まで約12時間。速さの種明かしは、賢いAIではなく「憲法・ゲート・検図ループ」という段取りの缶詰だった。チュア回路のカオス基板を題材に、使った道具、人間の赤ペンが直した7つのこと、AIが自力で見つけた改善、踏んだ地雷、費用の実データ、次からどうするかまで、できるだけ正直に長く書く。

モータの音程をPIDで留める ── 制御工学、実践編

PIDの式は3行で書ける。難しいのはその周りだ。ステッピングモータの『音程』を制御量に、Webカメラのマイクをセンサにして、プラント同定→P制御の限界→臨界ゲイン→Ziegler-Nichols→外乱棄却まで、教科書の一章ぶんを一晩の実機でたどった記録。最初の計画が失敗した話から、Dを使わなかった理由まで、初学者向けに正直に。

TMC2209は実際どんな奴か ── ドライバICを一晩、UARTだけで鳴らして測った記録

6軸モータ制御基板がJLCから届くまでの数週間、予習にTMC2209ブレークアウトを1軸だけ買って触った。UART一本でステッピングを回し、内蔵クロックを音叉で測り、StallGuardの共振帯を見つけ、2台の独立クロックのズレを聴き、最後は2台で演奏までした。データシートの数字が実機でどう見えるか、うまくいったことと『効かせられなかった』ことを、グラフ付きで正直に置いておく。

基板3枚、発注ボタンまで ── AIエージェントにEDAをやらせる時の統治原則

6軸モータ制御+8chバルブの基板3枚を、AIエージェントが回路図から配線・製造データまで作り、JLCPCBの発注直前まで運んだ記録。うまく回った統治原則と、サブエージェント編成の実際、そして発注直前の総点検が拾った2つのミスについて。

電源を切ったのに生きている回路——バックパワーの正体

主電源を切ったはずのICがほんのり動き、そして熱くなる。信号線から保護ダイオード経由で電気が染み込む「バックパワーリング」を図解する。

ステッピングモータはなぜ「中速」で暴れるのか

低速は静か、高速も滑らか、なのに中速だけガタガタ鳴る。ステッパの共振帯の正体を、バネと振り子の言葉で整理する。

AIに基板を設計してもらう ── 賢さより「止まる場所」をつくる

Pico W の I/O シールドを、AIアシスタントと一緒に設計した一連の作業を、実際の成果物をレビューしながら振り返る。効いたのはAIの賢さそのものより、仕事をファイル・表・スクリプト・DRC・レビュー図に落として再現できる形にしたこと、そしてAIを止める場所を先に決めたこと。あわせて、同じことを自分で再現するための設定と、いまのAIツールに何が頼めるのかも書く。

色の「近さ」は RGB の距離では測れない

RGB空間のユークリッド距離は、人間の感じる色の差と一致しない。知覚的に均等な色空間という考え方と、減色処理で何が変わるかを整理する。

エッジを壊さずにぼかす——バイラテラルフィルタの二重の重み

ガウスぼかしはエッジも一緒に溶かしてしまう。「空間の近さ」と「明るさの近さ」の二重の重みを使うと、輪郭を残したまま面だけを滑らかにできる。

画像は、2次元の信号だ ── 回路で知っている道具が、そのまま効く

DCTはフーリエのいとこ、JPEGの圧縮はローパスフィルタ、ぼかしは畳み込み=回路の応答、モアレはエイリアシング。画像を「絵」でなく「2次元の信号」と見た瞬間、信号や回路の道具箱が、そっくりそのまま使えるようになる。

間違った絵が、いちばん遠くまで連れていく

マクスウェルは空間を歯車で埋めた。明らかに間違っていたその模型から、彼は変位電流を見つけ、光が電磁波だと言い当てた。間違っているのに実り多い絵、について少し。

答えは流れ、成果物は残る ── AIとの会話を『資産』に変える

AIに聞いて、その場で分かった気になって、履歴の奥に沈む。便利だけど、後に何も残らない。投入したトークンに対して、再利用できる成果物がどれだけ残ったか ── そこを見る、という考え方について。賛成するところと、少し違うと思うところを、正直に。

Goertzel アルゴリズム:1つの周波数だけを見たいとき

FFTは万能だけど、特定の1周波数だけ欲しいときは非効率になる。Goertzelはそこを突いた2次IIRフィルターの話。ロックインとの関係や、FFTより古い歴史も。

アンテナが大きすぎると、ビームは「向く」のをやめる

XL-MIMOと6Gの文脈で話題になっている近距離場ビームフォーカシング。遠距離場の平面波仮定が崩れたとき、何が変わるのかを整理する。

球充填の n log n の壁が崩れた ── Klartag の確率的楕円体

2025年、Boaz Klartag が高次元球充填の密度下限を n log n から n² へ改善した。70年動かなかった壁を崩した手法は「確率的に変形する楕円体」── 結晶学と誤り訂正符号にまたがるこの問題の面白さを整理する。

ロックイン増幅器 — ノイズの底から信号を掘り出す乗算の話

「ノイズより 1000 倍小さい信号を測る」ロックイン増幅器の動作原理を、数式と直感の両側から整理する。乗算と積分だけでここまでできるのが少し面白い。

鏡にも窓にもなる結晶——MoOCl₂の巨大光学異方性

同じ結晶を90度回転させると反射率が劇的に変わる。van der Waals結晶MoOCl₂が示す「自然界最強クラスの複屈折」の話。

数千円のドングルで、頭上の飛行機を受信する——ADS-Bの話

飛行機は自分の位置を電波で言いふらしている。テレビ用のUSBチューナーを流用した安価な受信機で、その声を拾える。見えない電波を「見る」仕組みと、空を天井に映すプロジェクトの話。

CPUは待たない、GPUは隠す——メモリの壁と2つの哲学

同じ半導体なのに、CPUとGPUは設計思想が正反対だ。その分かれ道は「メモリの遅さ」をどう扱うか。待ち時間を縮めるか、物量で隠すか。最後に、中身を読める開源GPUの話を少し。

0と1だけで、なめらかな音をつくる——ΔΣ変調の心臓

出力が0か1しかない回路が、なぜ高分解能のオーディオを再現できるのか。誤差を貯めるタンクと「ノイズシェイピング」という発想を、一歩ずつ追う。

色は3つの数でできている — 色空間という地図

画面のどんな色も、結局は3つの数で決まる。なぜ3つなのか、なぜ色相は環になるのか。色を3次元の地図として見ると、迷子にならない。

色の幾何学:シュレーディンガーが100年前に残した宿題

色相・彩度・明度はなぜそう定義されるのか。シュレーディンガーが未完にしていた色知覚の数学的基礎が、非リーマン幾何学によってようやく完成した。

乗算なしで sin を計算する:CORDIC の話

加算とビットシフトだけで三角関数を近似する CORDIC アルゴリズムの仕組みを、数学的な直感から追う。

位相雑音——発振器が「完全な音」を出せない理由

理想的な正弦波は存在しない。発振器の出力が持つ微妙な周波数のゆらぎ、位相雑音の話。

WiFiチップの「ノイズ」が指紋になる——micro-CSI認証の話

RF回路の製造ばらつきがCSIに残す微小な染みを使ってWiFiデバイスを個別識別する、CSI-RFFという研究の話。

止まって見える車輪 ― エイリアシングと見かけの逆回り

扇風機やホイールが止まって、ときに逆回転して見える。あれは「見かけの負の周波数」だ。反時計回りに回るただの点が、サンプリングの間隔ひとつで時計回りに化ける話。

結晶に五角形がない理由

雪は六角、塩は四角。でも五角形の結晶は存在しない。回転対称が 1・2・3・4・6 回だけに制限される、その美しい理由。

マッチトフィルタは「問いを持つ受信機」である

ノイズの中から既知の信号を最も確実に取り出すフィルタとは何か。答えは「送信信号の時間反転」、その直感と数学を整理する。

スミスチャートは「地図」である

RFエンジニアが使う謎の円形グラフ、スミスチャートの話。複素インピーダンスの世界を円の中に押し込む発想がなぜ美しいのか。