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2次元の波 ── 波紋・干渉・ホイヘンス

🌀 場と保存 波動干渉ホイヘンス可視化
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波って、弦や管の1次元だけじゃない。── 池に石を投げて、丸い波紋がひろがるのを見たことはあるよね。あれも、立派な波だ。前回 までは波を1次元(弦や管)で見てきたけれど、今回は、その水面のように 2次元 へ広げてみる。

じつは、ここから先しばらく ── 波・場・力 を底で貫く2つの素朴な動きが、物理のあちこちで主役になってくる。ひとつは 足し合わせる(重ね合わせ)、もうひとつは 湧きも消えもしない(保存)。まずはその一歩目、足し合わせ の側を、見える2次元の波で手に馴染ませよう。

点源の波紋 ── 一発叩いたときの返事

静かな水面に、石をひとつ落とす。すると、落ちた点を中心に、丸い波が等速で広がっていく。

このとき大事なのは、水そのものが波紋と一緒に外へ流れていくわけではない こと。各点の水は、おおむねその場の近くで揺れているだけだ。本物の水面波では、水の粒は上下だけでなく前後にも少し動く(その場で小さく輪を描くように動く)けれど、それでも遠くへ流れ去るわけじゃない。ここで大事なのは、物質そのものではなく、山と谷のパターン(位相)のほうが伝わる、ということ。1次元のときと同じで、伝わるのは形であって、もの自体じゃないんだ。

山の模様は右へ進む 赤矢印=この後 動く向き(上下だけ) いまの水面 少し後(破線)
実線=いまの水面、破線=少し後の水面。赤い矢印は、その水が次にどちらへ動くか(上下だけ)── 黒い粒は、点線の縦線に沿って、破線の高さへ上下するだけ(横へは動かない)。流れて行くのは「形」であって、水そのものではない。

この「点をひとつ叩いたときの、丸く広がる返事」を、しっかり覚えておいて。あとで効いてくる、いちばん基本の部品なんだ。下のデモの最初の状態がそれだよ。

干渉 ── 波の足し算が、目に見える

波源を 2つ にしてみよう(上の「2つ(干渉)」を押す)。2つの丸い波が重なる場所では、ただ 足し算 が起きる。山と山が重なれば倍の山に、谷と谷なら倍の谷に(強め合い)。でも山と谷がぶつかると、打ち消し合って水面は静かになる(消し合い)。この縞模様が 干渉 だ。

式で見るとすっきりする。2つの波源からの距離を r1,r2r_1, r_2 とすると、重なった波は

cos(kr1ωt)+cos(kr2ωt)=2cos ⁣k(r1r2)2場所で決まる強さ  cos ⁣(kr1+r22ωt)\cos(kr_1-\omega t) + \cos(kr_2-\omega t) = \underbrace{2\cos\!\frac{k(r_1-r_2)}{2}}_{\text{場所で決まる強さ}}\;\cos\!\Big(k\tfrac{r_1+r_2}{2}-\omega t\Big)

ぱっと見はいかついけど、言っていることは一つ ── 2つの波の足し算が 「場所で決まる強さ」×「進む波」 にきれいに分かれる、それだけだ。前半の 2cosk(r1r2)22\cos\frac{k(r_1-r_2)}{2} が、その場所の縞の濃さを決める係数。鍵は 2つの波源からの道のりの差 Δ=r1r2\Delta = r_1 - r_2 だけ。(この分け方が出てくる計算は、三角関数の和積の公式ひとつ ── 長くなるので 末尾の補足 に置いたよ。)

Δ = nλ(道のり差がちょうど波長ぶん)→ 強め合い 和(黒)=倍 Δ = (n+½)λ(半波長ぶん多い)→ 消し合い 和(黒)=平ら(0)
波1(緑)と波2(橙)の届くタイミングのずれ=道のり差 Δ。ぴったり重なれば和(黒)は倍に、半分ずれれば和は消える。

だから縞は、2つの波源からの距離の差が一定の線(双曲線)に並ぶ。波長 λ\lambda や波源の間隔 dd を変えると縞が動くのを、デモで確かめてみて。「波の足し算」そのものが、模様として見えている んだ。

身のまわりにもある。2つのスピーカーから同じ音を流すと、部屋の中に「よく聞こえる場所」と「妙に小さい場所」が縞状にできる。光でやれば、二重スリットを通した光がスクリーンに明暗の縞を描く ── 光が波だという、いちばん有名な証拠だ。水でも音でも光でも、起きているのは同じ「道のり差ぶんだけずれた波の足し算」だよ。

ホイヘンス ── 波面は、無数の点源の足し算

干渉では「2つの点源を足す」を見た。これを うんと増やす と、波の進み方そのものを説明する原理になる。それが ホイヘンスの原理 だ。

まず原理から、ていねいに。いま、ある瞬間の波面(山が連なった一本の線)があるとする。ホイヘンスはこう考えた ── その波面の上の各点が、これからの一瞬、小さな丸い波(素元波)を出す点源になる。少し時間がたつと、無数の素元波がそれぞれ少しずつ広がる。すると、それら全部に外側からそっと接する線(包絡線) が、ちょうど次の瞬間の波面になっている。「波面が進む」とは、各点が撒いた丸い波の先端が、次に揃う場所へ移ることだったんだ。

「包絡線」って? たくさんの小さな円(素元波)に、外側から接する一本の輪郭線のこと。円を“足し合わせた絵”そのものではなく、円たちの先端をなぞった線、と思うといい。それが、次の瞬間の波面になる。

いまの波面 新しい波面 =包絡線 進む 素元波(各点が出す丸い波)
いまの波面の各点が、小さな丸い波(素元波)を出す。少し後、それらの先端に接する線(包絡線)が、次の波面になる。これがホイヘンスの原理。

これをデモで手ざわりにできる。「ホイヘンス」を押すと、波源が 横一列に並ぶ。ことわっておくと、一列に並べること自体がホイヘンスの原理、というわけではない ── これは「波面上の各点が素元波を出す」を、点を粗く並べて真似た 実演 だよ。それでも、たくさんの丸い波が足し合わさって、右へ進む まっすぐな平面波 が立ち上がるのが見える。端には丸みが残るけれど、真ん中は見事に平ら ── 素元波の足し算が、平面波を組み立てる瞬間だ。

波がまっすぐ進むのも、隙間で回り込むのも、角で曲がるのも、ぜんぶ「点源の波紋を足すと、こうなる」で説明できる。たとえば 回折 ── 波が 障害物の陰に回り込む のもこれだ。狭い隙間を波が通ると、向こう側で扇形に広がる ── 隙間の中の各点が点源になって、丸い波を撒くからだ。隙間が波長に比べて狭いほど、源の数が足りずに“まっすぐ”を保てなくて、ぐっと広がる。逆に隙間が広いと、たくさんの点源が揃ってまっすぐ進む。同じ「点源の足し算」ひとつで、直進も回り込みも、両方ちゃんと出てくる。

点源の応答さえ分かれば、それを並べて足すだけで、複雑な波の振る舞いが全部出てくる ── この「一発の返事を、たくさん足す」が、これから何度も顔を出す主役だよ。

位相(いそう)って? 波の「いま、ひと周期のどこにいるか」を表す目盛りのこと ── 山が来ているのか、谷なのか、その途中なのか。2つの波の位相が揃っていれば強め合い、半周ぶんずれていれば消し合う(さっきの干渉が、まさにこれだった)。だから「位相をずらす」は「波を出すタイミングを少しだけ前後させる」と思えばいい。

針の角度=位相 ひと回り=ひと周期 途中 途中 0 ¼ ½ ¾ 1周期
位相は「ひと周期のどこにいるか」の目盛り。左の針がひと回り(0→1周期)するあいだに、波は 山→途中→谷→途中→山 と一巡する。黒い点は同じ瞬間の波の位置で、針の角度に対応している。2つの波の針が同じ向きなら強め合い、正反対(半周ずれ)なら消し合う。

その「並べて足す」に、つまみをひとつ足すと、いきなり実用になる。各点源の タイミング(位相)を少しずつずらす んだ。すると、足し合わさってできる平面波が 斜めに傾く。源を機械的に動かさなくても、位相だけで波の向き(ビーム)を自在に振れる。これが ビームフォーミング(フェーズドアレイ)── レーダーや 5G の基地局アンテナ、超音波エコーが、まさにこれで“首を振らずに”狙いを定めている。並んだ点源の干渉が、そのまま向きを操る道具になるんだ。素子の間隔と位相差を動かして、主ビームが首を振るのを下で触ってみて。

ゾーンプレートと、湧いてくる“嘘の波”

同心円つながりで、もう少しだけ寄り道したい。波そのものから少し目をずらして、「見ること」のほうの話をしておきたいんだ ── その入口が ゾーンプレート。中身は sin(αr2)\sin(\alpha r^2) ── 半径の 2乗 に比例して位相が回るので、外へ行くほど縞が細かくなる「2次元のチャープ(うなり)」だ。

この模様には、面白くて少し怖い性質がある。粗く見る(粗くサンプリングする)と、本物には無いニセの渦・モアレがブワッと湧く。これが エイリアシング。細かすぎる縞を、それより粗い目盛りで拾おうとすると、拾い損ねた分が「実在しない、もっと大きな波」に化けて見えてしまう(ナイキストの限界を超えた、という)。

ここには、この連載の隠れたテーマがひとつ顔を出している ── 「見ること」そのものが、無いものを作り出すことがある。だから可視化は、いつも「これは本物か、見方が生んだ幻か」を疑う必要がある。ゾーンプレートは、その良心を試す最高のテストパターンなんだ。点サンプリング(ただ拾う)と面積平均(ならして拾う=アンチエイリアス)の違いまで、別ページで触れるよ。

▶ ゾーンプレートでエイリアシングを見る ↗

波の話をしていたはずが、いつの間にか「見ること」の話になっていた。でも、これは脱線しきってはいない。波は足され、目はそれを標本化する ── どちらも、世界をそのまま受け取るのではなく、ある規則で組み直している。そこは、奥のほうで繋がっている。

さて、波そのものに戻ろう。今日ずっと見ていたのは、結局 点源の返事を、たくさん足す ということだった。その『足す』こそ、これからの主役だ。

消えた波は、どこへ行ったのか

ここで、さっきの 干渉 にひとつ戻りたい。2つの波源を置いたとき、強め合いの線と消し合いの線が縞になったのを思い出してほしい(上の干渉の図で、和が平らになっていた所だ)。あの 消し合いの線 ── そこでは2つの波がちょうど打ち消して、水面はぴたりと静かだった。波が、消えていた。では ── そこにあったはずのエネルギーは、どこへ行ったんだろう?

消えてはいない。ここで足されているのは 振幅 で、エネルギーはその 振幅の二乗 に関係する。だから消し合いの線(振幅ゼロ)で“見かけ上”失われたエネルギーは、消えたのではなく、強め合いの線(振幅が倍 → エネルギーは4倍)へ再配分されている だけだ。理想的な損失なしの媒質で全体をならして数えれば、エネルギーの総量は、波源が出したぶんのまま変わらない。重ね合わせは、振幅を足すことで、エネルギーの 置き場所を組み替えている ── 新しく生みも、消しもしない。

これは、当たり前のようでいて、物理のいちばん深い骨の一つ ── 「湧きも消えもしない量がある」=保存 への、静かな伏線だ。ただ、その骨に進む前に、もう一段ある。次は、今日の『点源の返事を並べて足す』を一般化して、インパルス応答・畳み込み・フーリエ へ。一発の返事さえ分かれば何でも組み立てられる、という手を掴む。「で、エネルギーは?」の問いには、そのあと戻ってくるよ。

補足:干渉の式は、和積の公式ひとつ

干渉の所で出した分け方は、三角関数の 和積の公式 cosA+cosB=2cosA+B2cosAB2\cos A + \cos B = 2\cos\frac{A+B}{2}\cos\frac{A-B}{2} を当てるだけだ。この公式は、覚えていなくても加法定理2本からその場で出せる。P=A+B2P=\frac{A+B}{2}Q=AB2Q=\frac{A-B}{2} とおく(すると A=P+QA=P+QB=PQB=P-Q)。

cos(P+Q)=cosPcosQsinPsinQ\cos(P+Q)=\cos P\cos Q-\sin P\sin Q cos(PQ)=cosPcosQ+sinPsinQ\cos(P-Q)=\cos P\cos Q+\sin P\sin Q

この2本を足すと、sinPsinQ\sin P\sin Q の項がちょうど打ち消し合って、

cosA+cosB=2cosPcosQ=2cosA+B2cosAB2.\cos A+\cos B=2\cos P\cos Q=2\cos\frac{A+B}{2}\,\cos\frac{A-B}{2}.

これが和積の公式だ。図にすると、もっと腑に落ちる。波を「くるくる回る矢印(位相子)」で表すと、2つの波の和は2本の矢印を継ぎ足した対角線になる ── その向きは2本の 中間(平均の位相 A+B2\frac{A+B}{2})、長さは 2cosAB22\cos\frac{A-B}{2}。向きが「進む波」、長さが「その場所の強さ」に、そのまま対応している。

波1 波2 長さ=2cos((A−B)/2) O
2つの波を“回る矢印(位相子)”で見ると、和は中間の向き=平均の位相 (A+B)/2 を向き、長さは 2cos((A−B)/2)。向き=進む波、長さ=その場所の強さ、という分かれ方がそのまま出る。

あとは A=kr1ωtA = kr_1 - \omega tB=kr2ωtB = kr_2 - \omega t を入れるだけ。

A+B2=kr1+r22ωt,AB2=k(r1r2)2\frac{A+B}{2} = k\frac{r_1+r_2}{2} - \omega t, \qquad \frac{A-B}{2} = \frac{k(r_1-r_2)}{2}

なので、

cos(kr1ωt)+cos(kr2ωt)=2cosk(r1r2)2cos ⁣(kr1+r22ωt).\cos(kr_1-\omega t) + \cos(kr_2-\omega t) = 2\cos\frac{k(r_1-r_2)}{2}\,\cos\!\Big(k\frac{r_1+r_2}{2}-\omega t\Big).

時間 tt は後ろの「進む波」の括弧の中だけに残り、前の係数 2cosk(r1r2)22\cos\frac{k(r_1-r_2)}{2} には入らない ── だから前半は「その場所で固定の強さ」、後半は「時間とともに進む波」。道のり差 r1r2r_1-r_2 だけが縞を決める理由も、これで見えるね。