波って、弦や管の1次元だけじゃない。── 池に石を投げて、丸い波紋がひろがるのを見たことはあるよね。あれも、立派な波だ。前回 までは波を1次元(弦や管)で見てきたけれど、今回は、その水面のように 2次元 へ広げてみる。
じつは、ここから先しばらく ── 波・場・力 を底で貫く2つの素朴な動きが、物理のあちこちで主役になってくる。ひとつは 足し合わせる(重ね合わせ)、もうひとつは 湧きも消えもしない(保存)。まずはその一歩目、足し合わせ の側を、見える2次元の波で手に馴染ませよう。
点源の波紋 ── 一発叩いたときの返事
静かな水面に、石をひとつ落とす。すると、落ちた点を中心に、丸い波が等速で広がっていく。
このとき大事なのは、水そのものが波紋と一緒に外へ流れていくわけではない こと。各点の水は、おおむねその場の近くで揺れているだけだ。本物の水面波では、水の粒は上下だけでなく前後にも少し動く(その場で小さく輪を描くように動く)けれど、それでも遠くへ流れ去るわけじゃない。ここで大事なのは、物質そのものではなく、山と谷のパターン(位相)のほうが伝わる、ということ。1次元のときと同じで、伝わるのは形であって、もの自体じゃないんだ。
この「点をひとつ叩いたときの、丸く広がる返事」を、しっかり覚えておいて。あとで効いてくる、いちばん基本の部品なんだ。下のデモの最初の状態がそれだよ。
干渉 ── 波の足し算が、目に見える
波源を 2つ にしてみよう(上の「2つ(干渉)」を押す)。2つの丸い波が重なる場所では、ただ 足し算 が起きる。山と山が重なれば倍の山に、谷と谷なら倍の谷に(強め合い)。でも山と谷がぶつかると、打ち消し合って水面は静かになる(消し合い)。この縞模様が 干渉 だ。
式で見るとすっきりする。2つの波源からの距離を とすると、重なった波は
ぱっと見はいかついけど、言っていることは一つ ── 2つの波の足し算が 「場所で決まる強さ」×「進む波」 にきれいに分かれる、それだけだ。前半の が、その場所の縞の濃さを決める係数。鍵は 2つの波源からの道のりの差 だけ。(この分け方が出てくる計算は、三角関数の和積の公式ひとつ ── 長くなるので 末尾の補足 に置いたよ。)
- (道のり差が波長の整数倍)→ いつも同じ位相で届く → 強め合い。
- (半波長ずれ)→ いつも逆位相 → 消し合い。
だから縞は、2つの波源からの距離の差が一定の線(双曲線)に並ぶ。波長 や波源の間隔 を変えると縞が動くのを、デモで確かめてみて。「波の足し算」そのものが、模様として見えている んだ。
身のまわりにもある。2つのスピーカーから同じ音を流すと、部屋の中に「よく聞こえる場所」と「妙に小さい場所」が縞状にできる。光でやれば、二重スリットを通した光がスクリーンに明暗の縞を描く ── 光が波だという、いちばん有名な証拠だ。水でも音でも光でも、起きているのは同じ「道のり差ぶんだけずれた波の足し算」だよ。
ホイヘンス ── 波面は、無数の点源の足し算
干渉では「2つの点源を足す」を見た。これを うんと増やす と、波の進み方そのものを説明する原理になる。それが ホイヘンスの原理 だ。
まず原理から、ていねいに。いま、ある瞬間の波面(山が連なった一本の線)があるとする。ホイヘンスはこう考えた ── その波面の上の各点が、これからの一瞬、小さな丸い波(素元波)を出す点源になる。少し時間がたつと、無数の素元波がそれぞれ少しずつ広がる。すると、それら全部に外側からそっと接する線(包絡線) が、ちょうど次の瞬間の波面になっている。「波面が進む」とは、各点が撒いた丸い波の先端が、次に揃う場所へ移ることだったんだ。
「包絡線」って? たくさんの小さな円(素元波)に、外側から接する一本の輪郭線のこと。円を“足し合わせた絵”そのものではなく、円たちの先端をなぞった線、と思うといい。それが、次の瞬間の波面になる。
これをデモで手ざわりにできる。「ホイヘンス」を押すと、波源が 横一列に並ぶ。ことわっておくと、一列に並べること自体がホイヘンスの原理、というわけではない ── これは「波面上の各点が素元波を出す」を、点を粗く並べて真似た 実演 だよ。それでも、たくさんの丸い波が足し合わさって、右へ進む まっすぐな平面波 が立ち上がるのが見える。端には丸みが残るけれど、真ん中は見事に平ら ── 素元波の足し算が、平面波を組み立てる瞬間だ。
波がまっすぐ進むのも、隙間で回り込むのも、角で曲がるのも、ぜんぶ「点源の波紋を足すと、こうなる」で説明できる。たとえば 回折 ── 波が 障害物の陰に回り込む のもこれだ。狭い隙間を波が通ると、向こう側で扇形に広がる ── 隙間の中の各点が点源になって、丸い波を撒くからだ。隙間が波長に比べて狭いほど、源の数が足りずに“まっすぐ”を保てなくて、ぐっと広がる。逆に隙間が広いと、たくさんの点源が揃ってまっすぐ進む。同じ「点源の足し算」ひとつで、直進も回り込みも、両方ちゃんと出てくる。
点源の応答さえ分かれば、それを並べて足すだけで、複雑な波の振る舞いが全部出てくる ── この「一発の返事を、たくさん足す」が、これから何度も顔を出す主役だよ。
位相(いそう)って? 波の「いま、ひと周期のどこにいるか」を表す目盛りのこと ── 山が来ているのか、谷なのか、その途中なのか。2つの波の位相が揃っていれば強め合い、半周ぶんずれていれば消し合う(さっきの干渉が、まさにこれだった)。だから「位相をずらす」は「波を出すタイミングを少しだけ前後させる」と思えばいい。
その「並べて足す」に、つまみをひとつ足すと、いきなり実用になる。各点源の タイミング(位相)を少しずつずらす んだ。すると、足し合わさってできる平面波が 斜めに傾く。源を機械的に動かさなくても、位相だけで波の向き(ビーム)を自在に振れる。これが ビームフォーミング(フェーズドアレイ)── レーダーや 5G の基地局アンテナ、超音波エコーが、まさにこれで“首を振らずに”狙いを定めている。並んだ点源の干渉が、そのまま向きを操る道具になるんだ。素子の間隔と位相差を動かして、主ビームが首を振るのを下で触ってみて。
ゾーンプレートと、湧いてくる“嘘の波”
同心円つながりで、もう少しだけ寄り道したい。波そのものから少し目をずらして、「見ること」のほうの話をしておきたいんだ ── その入口が ゾーンプレート。中身は ── 半径の 2乗 に比例して位相が回るので、外へ行くほど縞が細かくなる「2次元のチャープ(うなり)」だ。
この模様には、面白くて少し怖い性質がある。粗く見る(粗くサンプリングする)と、本物には無いニセの渦・モアレがブワッと湧く。これが エイリアシング。細かすぎる縞を、それより粗い目盛りで拾おうとすると、拾い損ねた分が「実在しない、もっと大きな波」に化けて見えてしまう(ナイキストの限界を超えた、という)。
ここには、この連載の隠れたテーマがひとつ顔を出している ── 「見ること」そのものが、無いものを作り出すことがある。だから可視化は、いつも「これは本物か、見方が生んだ幻か」を疑う必要がある。ゾーンプレートは、その良心を試す最高のテストパターンなんだ。点サンプリング(ただ拾う)と面積平均(ならして拾う=アンチエイリアス)の違いまで、別ページで触れるよ。
波の話をしていたはずが、いつの間にか「見ること」の話になっていた。でも、これは脱線しきってはいない。波は足され、目はそれを標本化する ── どちらも、世界をそのまま受け取るのではなく、ある規則で組み直している。そこは、奥のほうで繋がっている。
さて、波そのものに戻ろう。今日ずっと見ていたのは、結局 点源の返事を、たくさん足す ということだった。その『足す』こそ、これからの主役だ。
消えた波は、どこへ行ったのか
ここで、さっきの 干渉 にひとつ戻りたい。2つの波源を置いたとき、強め合いの線と消し合いの線が縞になったのを思い出してほしい(上の干渉の図で、和が平らになっていた所だ)。あの 消し合いの線 ── そこでは2つの波がちょうど打ち消して、水面はぴたりと静かだった。波が、消えていた。では ── そこにあったはずのエネルギーは、どこへ行ったんだろう?
消えてはいない。ここで足されているのは 振幅 で、エネルギーはその 振幅の二乗 に関係する。だから消し合いの線(振幅ゼロ)で“見かけ上”失われたエネルギーは、消えたのではなく、強め合いの線(振幅が倍 → エネルギーは4倍)へ再配分されている だけだ。理想的な損失なしの媒質で全体をならして数えれば、エネルギーの総量は、波源が出したぶんのまま変わらない。重ね合わせは、振幅を足すことで、エネルギーの 置き場所を組み替えている ── 新しく生みも、消しもしない。
これは、当たり前のようでいて、物理のいちばん深い骨の一つ ── 「湧きも消えもしない量がある」=保存 への、静かな伏線だ。ただ、その骨に進む前に、もう一段ある。次は、今日の『点源の返事を並べて足す』を一般化して、インパルス応答・畳み込み・フーリエ へ。一発の返事さえ分かれば何でも組み立てられる、という手を掴む。「で、エネルギーは?」の問いには、そのあと戻ってくるよ。
補足:干渉の式は、和積の公式ひとつ
干渉の所で出した分け方は、三角関数の 和積の公式 を当てるだけだ。この公式は、覚えていなくても加法定理2本からその場で出せる。、 とおく(すると 、)。
この2本を足すと、 の項がちょうど打ち消し合って、
これが和積の公式だ。図にすると、もっと腑に落ちる。波を「くるくる回る矢印(位相子)」で表すと、2つの波の和は2本の矢印を継ぎ足した対角線になる ── その向きは2本の 中間(平均の位相 )、長さは 。向きが「進む波」、長さが「その場所の強さ」に、そのまま対応している。
あとは 、 を入れるだけ。
なので、
時間 は後ろの「進む波」の括弧の中だけに残り、前の係数 には入らない ── だから前半は「その場所で固定の強さ」、後半は「時間とともに進む波」。道のり差 だけが縞を決める理由も、これで見えるね。