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波は、運動方程式から生まれる ── ばね玉の鎖と、分野の境目

🌀 場と保存 力学波動運動方程式連続体
ばね玉の鎖を全画面で開く ↗

物理を習うと、力学・波動・電磁気・熱…と、分野ごとに章が分かれている。あの分け方は、教えやすさのための 縫い目 だと思う。便利だし、理由も分かる。でも時々、その縫い目を一本ほどいて「ほんとうは地続きだ」と確かめると、すごく気持ちがいい。

この回はそれをやる。これまで 力学波動 を別々に積んできたけれど ── 波は、いちばん素朴な力学(F=maF=ma)から、自然に生まれてくる。その瞬間を見よう。

① ばね玉の鎖に、ただ F=maF=ma を立てる

舞台は単純だ。同じ質量 mm の玉を横一列に並べ、隣どうしを同じばね(ばね定数 kk)で繋ぐ。両端は壁に固定。各玉は、真上・真下(横向きのずれ yy)にだけ動けるとする。

nn 番目の玉に働く力を考える。右の隣 yn+1y_{n+1} との段差で k(yn+1yn)k(y_{n+1}-y_n) だけ引かれ、左の隣 yn1y_{n-1} との段差で k(ynyn1)k(y_n-y_{n-1}) だけ引き戻される。足すと、その玉の運動方程式は

my¨n=k(yn+1yn)k(ynyn1)=k(yn+12yn+yn1)m\,\ddot{y}_n = k(y_{n+1}-y_n) - k(y_n-y_{n-1}) = k\,(y_{n+1} - 2y_n + y_{n-1})

yₙ₋₁ yₙ yₙ₊₁ k(yₙ−yₙ₋₁) k(yₙ₊₁−yₙ) 引き戻し ← 隣の平均
玉 n が左右の隣を結ぶ線(=隣の平均)からはみ出すほど、平均へ引き戻される。正味の力 = k(yₙ₊₁−2yₙ+yₙ₋₁)。

それだけ。特別なことは何もない、ただの F=maF=ma を玉の数だけ並べただけだ。右辺の yn+12yn+yn1y_{n+1}-2y_n+y_{n-1} は「自分が、左右の平均からどれだけ出っ張っているか」を測っている。出っ張っていれば引き戻される ── ごく素朴な話。

ひとつ、おまけの正直な補足。横ずれ yy に対するばねの戻し力を k(yn+1yn)k(y_{n+1}-y_n) と書いたけれど、これは ずれが小さいときの近似 だ。本当は玉が斜めにずれると、ばねの向きや伸びは角度のぶん複雑になる。でも yy が玉の間隔より十分小さければ、戻し力はこの「差に比例」でよく合う ── 力学でいう “線形化”、便利でよく使う一手だよ。

下で「弾く」を押すと、真ん中の玉をつまんで離す。あとは各玉が上の式に従うだけ。なのに、全体としては波が左右に走って、壁で跳ね返る。誰も「波になれ」とは言っていないのに、F=maF=ma の集まりが自然に波として振る舞う。

② 玉を増やすと、波動方程式が出てくる

なぜ波になるのか。玉の間隔を aa として、nn 番目の玉の位置を x=nax = na とみなそう。さっきの右辺 yn+12yn+yn1y_{n+1}-2y_n+y_{n-1} は、数値計算でおなじみの 二階微分の近似 そのものだ:

yn+12yn+yn1    a22yx2y_{n+1} - 2y_n + y_{n-1} \;\approx\; a^2\,\frac{\partial^2 y}{\partial x^2}

ここでいう「玉を増やす」は、正確には 玉の間隔 aa をどんどん小さくする こと。すると差分 yn+12yn+yn1y_{n+1}-2y_n+y_{n-1} が微分 2y/x2\partial^2 y/\partial x^2 に化ける。これ、数値計算でおなじみの 有限差分(微分を、とびとびの引き算で近似する手)を、ちょうど逆向きに辿っているんだ。

これを運動方程式に入れると、

my¨=ka22yx22yt2=ka2m2yx2m\,\ddot{y} = k\,a^2\,\frac{\partial^2 y}{\partial x^2} \quad\Longrightarrow\quad \frac{\partial^2 y}{\partial t^2} = \frac{k a^2}{m}\,\frac{\partial^2 y}{\partial x^2}

玉を細かくしていく(NN\to\inftya0a\to0)と、つぶつぶの鎖は なめらかな1本のひも になり、この式が残る。これは ── 前にやった 波動方程式 と、まったく同じ形だ:

2yt2=c22yx2,c=akm\frac{\partial^2 y}{\partial t^2} = c^2\,\frac{\partial^2 y}{\partial x^2}, \qquad c = a\sqrt{\frac{k}{m}}

cc が波の速さ。張った弦で言えば c=T/μc=\sqrt{T/\mu}TT は張力、μ\mu は線密度)── 同じ形だ。「波動」という分野は、ばねと玉という純・力学から、二階微分を一つ経由しただけで出てきた。鎖のデモで NN を増やすほど、つぶつぶの跳ね返りがなめらかな波に近づくのは、この極限を目で見ているんだよ。

玉を細かくすると、とびとびの鎖がなめらかなひもになる
玉を細かくしていくと、とびとびの鎖がなめらかなひもに ── 離散の「差」($y_{n+1}-2y_n+y_{n-1}$)が、連続の「微分」($\partial^2 y/\partial x^2$)に化ける。畳み込みの「和→積分」と、同じ“刻み→0”の手だよ。

③ 鎖の固有の揺れ = あの定在波

もう一つ、繋がる所がある。鎖を「弾く」のではなく、特別な形に整えて離すと、形を保ったまま、その場で上下に揺れるだけ の運動になる。これが鎖の 基準振動(ノーマルモード)。デモの「基準モード 1/2/3」がそれだ。

NN 個の玉・両端固定だと、基準モードの形はきれいに決まっていて、第 jj モードは

yn(j)=sin ⁣jπnN+1y_n^{(j)} = \sin\!\frac{j\pi n}{N+1}

これ、見覚えがあるはず ── 前編の定在波 で出てきた sin(kx)\sin(kx) の並びと同じだ。第1モードは腹が1つ、第2モードは2つ、第3モードは3つ。固定端が節になり、半波長おきに腹が並ぶ。鎖の「固有の揺れ」と、波動の「定在波」は、同じものだった

おまけに、その揺れの速さ(角振動数)は

ωj=2km  sin ⁣jπ2(N+1)\omega_j = 2\sqrt{\frac{k}{m}}\;\left|\sin\!\frac{j\pi}{2(N+1)}\right|

で決まる。この式、ぱっと見は込み入っているけれど、言っていることは素朴だ。長い波jj が小さく、鎖がゆったりうねる)では sinθθ\sin\theta\approx\theta の近似が効いて ωjk/mjπN+1\omega_j \approx \sqrt{k/m}\cdot\frac{j\pi}{N+1} ── これは理想のなめらかなひも(ωj=jπc/L\omega_j = j\pi c/L)と、ぴったり一致する。ところが 短い波jj が大きく、隣どうしが激しく上下する)になると、その近似がずれて、実際の ωj\omega_j は直線から 下に曲がっていく。この「波長によって進む速さが変わる」ことを 分散 と呼ぶ。

ω(揺れの速さ) モード番号 j(短い波 →) ずれ=分散 長い波=一致 理想のひも(直線) 実際の鎖(下に曲がる)
横軸=モード番号 j(右ほど短い波)、縦軸=揺れの速さ ω。長い波(左)では理想のひも(橙の直線)と実際の鎖(緑)がぴったり重なる。でも短い波(右)ほど、鎖は直線から下にずれて速さが頭打ちになる ── この赤いずれが分散だよ。

「つぶつぶの鎖」と「なめらかなひも」の違いは、まさにここに出る。素朴なモデルが、ちゃんと自分の使える限界まで正直に教えてくれる ── そこが、私は面白いと思う。

④ 縫い目は、地続きのしるし

ここまでで、力学(F=maF=ma)と波動(波動方程式)のあいだの縫い目を一本ほどいた。別々に見えていた二つは、根っこでは同じ一つのものだった ── ということだね。

そして ── ここからが、本当に驚くべきところだ ── まったく同じ波動方程式 が、まるで示し合わせたように、他の分野にも次々と顔を出す。

形が同じなら、起きることも同じ ── 進む波、定在波、共鳴、反射。だから一度どこかで波を掴むと、別の分野の波も「あ、これ知ってる」になる。分野の壁は、越えられない壁じゃなくて、地続きであることのしるしみたいなものだと、私は思う。

まとめ

力学のページ波動のページ、別々に読んできた2本が、ここで1本に繋がった。物理が分野に分かれているのは便利のためで、奥はちゃんと一つ ── そう思えると、章の切れ目が少し心地よくなると思う。